自宅の一部をカフェなどの店舗にする店舗併用住宅(店舗兼住宅)は、まさに「家でお店を開業したい」という夢を叶えるスタイルです。
住宅部分と店舗部分が一つの建物に融合しており、例えば1階がカフェなどの店舗、2階が居住スペースというように配置されるのが一般的です。

近年、コロナ禍を経て「家カフェ」「店舗付き住宅」で自宅開業を目指す人も増え、注目されています。

店舗併用住宅でカフェを併設するメリット

  • 家賃など経費を抑えられる: 自宅に店舗を構えることでテナント家賃が不要になり、毎月の固定費負担を大幅に削減できます。また店舗と住宅を別々に建てるより一体で建築した方が基礎や屋根を共有できるため、初期の建築コストも抑えられます。敷金・礼金や更新料も不要なので、長期的に見ても経済的なメリットは大きいです。

  • 通勤不要で時間を有効活用できる: 仕事場が自宅と一体化しているため通勤に時間を取られることがありません。その分の時間や労力を仕込みや接客準備など事業に充てられ、開店・閉店時間も自分のペースで柔軟に設定できます。また通勤ストレスや移動のリスクがないことは精神的なゆとりにもつながります。

  • 自宅で営業することで自然に地域に密着した経営がしやすくなり、近隣の常連客とのつながりや口コミ効果も期待できます。

  • 家族との時間を大切にできる: お店と住まいが近接しているメリットとして、育児や介護と仕事の両立が挙げられます。営業の合間にすぐ自宅に戻って子どもの様子を見たり、休憩時間に家族と顔を合わせたりしやすい環境です。特に小さなお子さんがいる場合や高齢の家族を介護している場合、急な体調不良などにもすぐ対応できる安心感があります。家庭と仕事を近くで両立できる点は、店舗併用住宅ならではの大きなメリットです。

  • 思い通りの店づくりができる: 賃貸テナントと違い、自宅兼店舗なら間取りや内装デザインを自由に設計できます。外観やインテリアにオーナーのこだわりを反映したおしゃれなカフェ空間をつくることも可能です。例えば壁の色や照明、キッチン設備まで、自分の理想のカフェ像に合わせて作り込めるので、他店との差別化やブランディングにも有利でしょう。制約の少ない自由な設計は、開業者にとって大きな魅力です。

  • 住宅ローンの低金利を活用できる: 条件次第では、建築資金に住宅ローンを適用して低金利で調達することも可能です。金融機関によりますが、建物面積の半分以上が居住スペースであれば店舗部分にも住宅ローンが使える場合があります。住宅ローンは事業用ローンより金利が低めに設定されているため、これを活用できれば毎月の返済負担を軽減し、資金計画にゆとりが生まれます。融資面での優遇が受けられるのは店舗併用住宅の見逃せない利点です。

店舗併用住宅の設計ポイント(カフェ編)

カフェ併設の店舗併用住宅を計画・設計する際は、お客様にとって利用しやすく、かつ家族にとって暮らしやすい工夫が欠かせません。以下に、設計上特に注意したいポイントをまとめます。

  • 生活動線と店舗動線を分離する: 家族のプライバシーと安全、そして店舗の雰囲気維持のために、住居部分と店舗部分の出入口や通路は分けて設計するのが理想です。例えば店舗用の玄関と自宅用の玄関を別々に設け、お互い直接行き来しない動線計画とします。仮に共用の出入り口にする場合でも、中に仕切り扉やロックを設けてお客様が住居側に入れないようにするなどアクセス制御が必要です。動線の分離によって、お客様は迷わず店に入れ、家族も人目を気にせず生活できます。

  • 騒音への対策を講じる: 店舗の音が住宅部分に響かないような防音設計は必須です。とくにカフェではコーヒーマシンやBGM、来客の話し声などが発生するため、床や壁・天井に防音材を入れたり、防音ドアを採用したりして騒音を遮断しましょう。可能であればカフェの真上に家族の寝室やリビングを配置しない間取りにするのも効果的です。実際にあるカフェ併用住宅の例でも、静かな空間づくりのためにカフェの上に家族のリビング(LDK)を設置しないプランが採用されています。気密性・断熱性を高めた高性能な住宅にすると外部・店舗からの音を遮りやすく、家族にとって快適な静かな住環境を実現できます。お客様側にとっても、滞在中に家庭の生活音が聞こえないよう配慮が必要です。

  • 臭い・換気への工夫: カフェの厨房で発生する料理やコーヒーの匂いが住居スペースに流れ込まないような換気計画を立てましょう。飲食店部分には強力なレンジフードや排気ダクトを設置し、排気の方向や位置にも配慮します。例えば排気口を住居の窓付近から離れた高所に設け、臭いが室内や近隣住宅にこもらないようにします。反対に、住居部分の生活臭(料理や風呂の湿気など)が店舗に漏れてお客様に不快感を与えないよう、住居側にも十分な換気設備を整えることが大切です。臭いと空気の流れをコントロールすることで、店内の快適さと家庭側の快適さを両立できます。

  • 看板や外観デザインを工夫する: 自宅兼店舗の場合、看板の設置場所や建物の外観計画も重要です。店舗入口が住宅街の中にあれば、初めて訪れるお客様にも分かりやすいように案内表示や看板を工夫しましょう。たとえば門柱や塀に小さな看板を出したり、店舗部分の外壁カラーをアクセントにして目印にする方法があります。また、住宅地によっては屋外広告物の規制があるため、派手すぎる看板やネオンライトは避けつつ、センス良く目を引くデザインでお店の存在をアピールします。看板設置には自治体の許可が必要な場合もありますので計画時に確認しておくと安心です。

  • 駐車場やエントランスの配置: 郊外や車社会の地域で自宅カフェを開業するなら、駐車スペースの確保も欠かせません。店舗の前や敷地内に駐車場を用意する場合、車の出入りがしやすく十分なスペースを確保しましょう。無理に台数だけ増やして窮屈な駐車場にすると、お客様が停めにくく敬遠される恐れがあります。少ない台数でもストレスなく停められるレイアウトを優先するのがポイントです。また店舗入口は道路から見えやすい位置に設け、住居の玄関とは反対側や十分に離れた位置に配置します。こうすることで、お客様の車や出入りによる騒音が家族の生活空間に直接影響しにくくなり、近隣にも配慮できます。玄関周りは照明計画も含め、安全で分かりやすいアプローチを心がけましょう。

家族のプライバシーと快適な住環境を守る工夫

店舗併用住宅では家族のプライバシー確保住環境の快適性にも特段の配慮が必要です。設計段階から「生活感をどう隠すか」「騒音や来客ストレスをどう遮るか」を考えておきましょう。

まず、お客様に自宅部分の生活感を感じさせない工夫が大切です。例えばゴミ置き場や洗濯物干しはお客様の目に触れない位置に配置し、生活感を演出しないようにします。先述のように店舗と住居の階を分ける場合、2階バルコニーの手すり壁を高めに造り、下から見上げても洗濯物や生活用品が見えないよう配慮する実例もあります。生活スペースが店舗から丸見えにならないレイアウトにすることで、家族のプライバシーが保たれ、お店の非日常的な雰囲気も損ないません。

次に、住居部分の静かで安心できる環境を確保しましょう。店舗と住居の間に高い遮音性・断熱性をもたせることで、営業中の物音やお客様の話し声が家族の生活空間に侵入するのを防げます。たとえば床下や壁内部に防音材を入れたり、防音ドア・二重サッシを採用すると効果的です。また、店舗営業時でも家族が落ち着いて過ごせるよう、営業時間帯や定休日の設定にもメリハリをつけると良いでしょう。家族のプライベート時間をしっかり確保し、オンオフの切り替えを意識することで、長く快適に自宅カフェを続けられます。

さらに防犯面でも、お客様エリアと住居エリアを明確に分離することで安心感が高まります。住居側の入口には鍵付き扉を二重に設けたり、防犯カメラやインターホンで来客を確認できるようにしておくと家族も安心です。総じて、「お店はお店」「家は家」と必要に応じて切り離せる工夫が、プライバシーと快適性を守るポイントになります。

自宅兼カフェの成功事例:地域に愛される店舗併用住宅

実際に店舗併用住宅でカフェ開業を果たし、成功している例もあります。例えば三重県四日市市で築40年の木造住宅をリノベーションし、自宅兼カフェとして生まれ変わった例でお店が1階がカフェ、2階が住居という典型的な店舗併用住宅で、オーナーの男性は元外資系企業勤務という異色の経歴ながら、会社を退職してカフェ開業の夢を実現しました。物件探しから開業準備までを担当させていただき、2018年に駅近くの好立地でオープンした同店は、白を基調とした洗練された内装と本格的な焙煎コーヒーが評判を呼んでいます。駅前商店街から一歩入った路地に佇むそのカフェは、地元の人々にとって「身近でほっとできる憩いの場」となり、地域に根ざした人気店へと成長しつつあります。

他にも、空き家になっていた古民家を改装して自宅兼カフェにし、家族で経営しながら地域交流の拠点にしているケースや、郊外の住宅地で週末だけオープンする自宅カフェが近隣住民の憩いの場になっている例など、成功事例は各地で増えています。こうした実例に共通するのは、家族の生活とお店の運営を上手に両立させつつ、地域のニーズに寄り添った個性ある店づくりをしている点です。

自宅でカフェを始める店舗併用住宅には、経済的メリットから生活面の利点まで数多くの魅力があります。一方で、設計段階で考慮すべき課題も多岐にわたりますが、適切な計画と工夫次第で「家族が快適に暮らせる住まい」と「お客様に愛されるカフェ」の両立は十分可能です。ぜひ成功事例やプロの知見も参考にしながら、自宅カフェ開業の夢を具体的なプランへと前進させてください。自宅の一角から始まる小さなカフェが、やがて地域に愛されるとっておきのお店になる日を楽しみにしています。